穏やかな陽光の差し込む松葉寮の自室で、笠井はぼんやりと窓の外を眺めていた。
今は藤代が飲料水を買いに行っているので部屋には笠井一人きり。
春らしい柔らかな風を窓から出した顔に受け、なんとも心地良い気分に浸る。

「…気持ちいー…」

んー、と小さく唸りながら軽く伸びをしてまた窓の外の景色へと目線を戻した。
目の前には、沢山の桜。
あまりにも速い今年の桜の開花に、今度は言って来る入学生は可哀相だな、とふと思った。

すると。

春風以外の何か、別の温もりを持った物がふわりと笠井の頭を柔らかく撫でる。
そんな事をして来る人は笠井の思いつくところ2人。
自分の髪を必要以上に触ってくるのは藤代とこの男のみだ。

「あーきーらさーん?くすぐったいですよ」

くしゃくしゃと髪の毛を弄る手を笠井が両手で掴んでぎゅう、と抱きしめる。
だがその抱きしめたはずの腕がぐいと笠井の体を引き寄せて、逆に笠井が抱きしめられてしまった。
体に回された腕がくすぐったくて小さく笑うと相手―――三上亮も笑った。

「くすぐったくしてんの」

笠井の肩に顎を乗せた形で三上がそう言うと、その吐息が笠井の首筋に当たり、更にくすぐったさが増した。
そんな気持ちを悟られないように(だってこの人、スッゴイ鋭いし)笠井が甘えたように抱きしめた腕に顔を擦り付ける。
そんな猫のような笠井の仕草に、また三上が小さく笑った。

「くすぐってーよ、竹巳」
「くすぐったくしてるんですよ」

先程と立場が逆になっただけの展開になってくすくすと笑う笠井が可愛らしくて、
三上が片手で、勿論笠井を抱きしめていない方の腕で軽く笠井の頭を押さえた。
笑っていた笠井も三上の意図に気付いて大人しくソレに従い、瞼を閉じる。
相変わらず口許は微笑んでいたのだが。

本当は触れるだけの軽いキスにしようと考えていた三上だったが、なんとなく気分変更。
深すぎず、軽すぎないキスをした。

軽く笠井の下唇を舐め、唇を離す。

それと同時に笠井も瞼を開いた。
ほんのりと頬が赤く染まっているのを見て、今度はその頬に軽く唇を押し付ける。

「…っ…」

小さく笠井が声を出したのを聞いて、三上は満足そうに笠井を見た。
笠井は頬を染めるだけでは無く、少し瞳を潤ませている。
そして不満気に唇を尖らせた。

「竹巳、顔が桜みたいな色してる」
「…だって先輩がいつもと違うことした…」
「あ?」
「いつもはあんな優しくほっぺにちゅぅなんてしないじゃないですか…」
「して欲しいならいつでもしてやるけど?」
「…え〜〜」
「何だよ。何が不満?」

中々尖らした唇を直さない笠井に三上が訝しげに尋ねる。
すると笠井は桜色に染まっていた頬を更に赤くさせて俯いた。
そしてそのまま三上の肩口に顔を埋めさせて、もごもごと小さく言った。

「…じゃやだ…」
「あ?聞こえねぇ」
「ほっぺじゃやだ。口がいい…」

予想外の笠井の言葉に暫く呆けていた三上がクッ、と喉の奥で笑った。

「…いつでもしてやるって。安心しな」
「…学校じゃ駄目ですよ。進学に関わりますよ」
「見られなきゃ平気だろ?んなもん」
「そういう問題ですかね…先輩3年なんだからもうちょっと…」
「…てかおまえ二人の時は先輩じゃ無くてって言ってんだろ?」
「だって二人じゃないですもん」
「…は?」
「ねー誠二?」
「……………は?」

笠井の視線の先を振り返ってみると、ソコには片手にジュースを持った藤代の姿。
三上と目が合うと藤代が気まずそうに引きつった笑いを見せた。

「…あ。アハハ!」
「…どこら辺からいた?オマエ」
「えッ!いや、今来たばっ…」
「確かちゅーしてる時にはいたよね?」
「タク――――!!!!」





その後藤代君が三上先輩に追いかけられたのは言うまでも無い話。







END





甘すぎて死にそう。
昔はほんとに甘すぎるくらい幸せな話が好きでした(今もw
なんと6年前の作品(!!!)