静かな談話室。
テーブルに突っ伏して穏やかに寝息を立てている根岸と、その隣で本を読む笠井と。
その後ろで笠井と同じように本を眺めている渋沢。
3人しかいないその談話室はいつもと比べようが無いくらいに静かなものだった。
パラリパラリと時折聞こえてくる本の捲れる音が5分前から途切れているのに渋沢は気付いていた。
背後の笠井も寝てしまったのだろうか。
だが、寝息を立てている様子も無い。

もぞもぞと根岸が動く気配がした。

そろそろ部屋に戻さなければ、と渋沢が根岸の方を振り向こうとした時。
笠井が目を本に落としたまま渋沢に声をかけた。



「渋沢先輩」



急に声をかけられ、渋沢が少し驚く。
根岸へと向ける予定だった顔を笠井へと移した。
渋沢の返事を待つことなく、笠井が続ける。




「好きってどういう気持ちですか」





突然の笠井の台詞に渋沢は暫く返事を返すことが出来ずにいた。
冗談で言っている様子は無い。
この手の冗談を言う人物では無いことを、渋沢も良くわかっている。
だが、悩みの相談にしては真剣さに欠けていた。



「先輩?」




暫く呆けていた渋沢に痺れを切らして、笠井が本から目を離して渋沢の方を振り向く。
別段いつもと変わらない笠井の表情を見て、渋沢があぁと短く返事を返した。
手元に置いてあった本をパタンと閉じて、笠井の前の席へと座りなおした。
相変わらず寝ている根岸を起こそうとした渋沢を笠井が小さく引き止める。


「後で俺がネギ先輩送りますから…」

「…そうか」


小さな笠井の声に合わせる様に渋沢が小声で応える。
どっちが先輩何だか分からないな、と笑って見せると笠井も控えめに微笑んだ。
いつもよりも元気の無い後輩を心配そうに渋沢が見る。


「…何か、あったのか?」


先程の質問といい、今のこの雰囲気といい。
どこか目の前にいる後輩は様子がいつもと違う様だった。





「さっき、ネギ先輩に告白されました」




渋沢が少しだけ目を見開いた。
根岸が笠井にどういった感情を持っていたかは大体わかっていたが。




「…それで、OKしたのか?」




笠井がこくりと頷いた。
だが、その表情はどこか曇っている。



「嬉しそうに見えないな」



そっと呟いた渋沢を、笠井がじっと見つめる。
困ったように揺れる猫の目は渋沢を捉え、唇が震えるように開いた。




「…わからないんです」




弱々しく出てきたその言葉を渋沢は静かに聞いていた。
笠井が続ける。



「誠二に言われる好きと、ネギ先輩に言われた好きはちょっと違ってて」



「ネギ先輩のこと、好きだし嫌いじゃないから」



「みんなの事好きだけど」



「好きってどういうことなのか………」





わからないんです、と最後に小さく付け足した笠井が俯く。
じっと聞いていた渋沢は少しだけ息を吸って、ゆっくりと考えを纏めながら応えた。




「『好き』って言葉、意味は違っていても中身は同じなんだと思うが」



「友情からはじまる好きでも…いいんじゃないのか?」



「友情、尊敬からはじまる恋愛なんてものは異性間でも良くあることなんだし」



「今はその『好き』がどっちか分からなくても」



「愛情に変わるのはお前たち次第なんだと思う」



「…笠井は何に対して、悩んでるんだ?」




ずっと渋沢を向いていた瞳がちらりと隣の根岸へと移る。
今にも涙がこぼれそうな猫目が揺れた。



「こんなあやふやな気持ちで…ネギ先輩に申し訳なくて…」


「あやふやじゃ無いだろ?」


「え…」


「笠井は、根岸のこと、好きなんだろう?」



友情、尊敬、憧れ、愛情。
どれであっても行き着く先は『好き』と言う言葉に当てはまるのならば。



「…す、きです…」



猫の目からぽろりと涙がこぼれた。
笠井の手元に置いてあった本に数滴の染みが出来た。



「ネギ先輩のこと、好きです……」



堰を切ったように涙が流れ始めた笠井の頭をひと撫でして、渋沢が席を立った。
先程まで読んでいた本を手に取り、もう一度笠井の頭を撫でる。
震え続けるその肩をポン、と叩いて歩みを進める。

談話室の入り口まで来たところで、くるりと後ろを振り向いた。



「根岸、タヌキ寝入りしてないでちゃんと笠井の事送ってやるんだぞ」



その言葉に笠井は驚いて渋沢と根岸を交互に見た。
当の根岸はいまだ突っ伏したまま、渋沢に向かって手の平をひらひらと泳がせていた。





二人の「好き」はまだまだこれから。


END

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お題です。
「好きってどういう気持ちですか」
配布サイト様が↑のように書かれてて、笠井っぽい!!!と思って書いてしまいました(笑
ネギ笠なんです。いちおう。
でもネギ全然出番無いね!アハハ!



3/19 23:27